Message in a Bottle

 手紙の誤配、という現象を最近聞かなくなった。
 住所を変更していても、とりあえずは名前さえ書いてあれば、郵便局は届けてくれる。

 私が大学生になったばかりの頃(97年当時)、私は携帯電話も持っていなかったし、ネット環境も今日ほど充分ではなかったため、何かあったとしても、友人も親も先生も、誰も私に連絡を取ることができなかった。今考えるととんでもないことのような気もするが、たかだか15年ほどの間に我々を取り巻く「メッセージ」のありようは、全く変化してしまった。冷静に自身の時間軸を紐解いていくと、まずこの単純な事実に驚かざるを得ない。
 mixiやFacebookに代表されるコミュニケーションツールは、ほぼ24時間、我々の安否を管理してくれている。手紙は即時先方に届けられ、返信を待つ、といった具合に。数日間ログインがなければ、何かあったか、と仲間は心配してくれる。先の震災でも、SNSは多大な貢献をもたらしたのだそうだ。

 ここにおいて、ふと思う。
 ひとつ、イタズラをしてみよう。
 そもそもブログは不特定多数の人間が閲覧できる、謂わば「晒された手紙」のはずだ。
 私は、このブログの最後に手紙を流そう。瓶に詰められた手紙を。
 この手紙はゆらゆらと記号の波間を漂い、やがて誰かのもとにたどり着くだろう。
 宛先には、たどり着かないかもしれない。でも、それでいいのだ。
 このブログがきっかけで、この手紙を手にした誰かが、「これは俺への手紙だ」と感じれば、その人こそ本当の私の差出人かもしれない。
 「手紙」とは、常にそのような誤配可能性を秘めたものであることを忘れるべきではない。
 願わくば、見知らぬあなたも、手紙を読まれますよう。





   黒瀬 様

 あなたは、おそらくもっとも古くからの私を知る一人でしょう。
 そうして、私のあらゆる面における人間的な様相を、限りなく的確に掴んでいる一人でしょう。
 私は、一生のうちで、あなたに一番迷惑をかけたと思っています。
 あなたには感謝の言葉しか出てきません。
 恋人として。母として。
 信じているものを、追いなさい。今のあなたには翼があるはずです。

 また、小学校で会いましょう。
 トランプの図柄に、願いを込めて。
 数十年の時を超えて、あなたは、知るでしょう。
 いつまでも、応援しています。誰よりも。



   三ツ田 様 (あえてこの名前で)

 あなたは、いうまでもなく私の姉です(笑)。
 私もまた、あなたの忠実な弟であったことでしょう。
 あなたに愛情を感じていなかった、といえば嘘になります。
 あの日見た台場の風景は、今もなお色褪せることなくこの胸の内にあります。
 しっかりもののあなたは、しっかりものの母であり、私の心の原風景です。


   近藤 様

 今になってもあなたの顔が思い出されるのは、いったい何故でしょう?(笑)
 全く種類の違うタイプのあなたと私が、今日に至るまで友人としてありえたことに驚いています。
 性格も、考え方も、生き方も、全く違う道のりでしたね。
 しかし、だからなお、私はあなたを大切に思っています。
 あなたは立派な人間です。
 私と親交を保ってくれて、ありがとう。


   白方 様 (あえてこの名前で)

 あなたは、私の芸術的気質を理解していた、一番古くからの友人です。
 あなたも、今となっては母親になりました。
 あのとき、あなたが見ていた光芒は、ポストモダンと呼ばれた時間を越えて、確かに今日の文化的モードの地盤であり続けています。
 私たちは、保守派であったのかもしれない、とふと思うことがあります。
 あの時代の最良の理解者は、あなたでした。ありがとう。


   澤田 様

 あなたは、おそらく「悪友」という言葉を当てはめるのにあまりあるくらいの友人です。
 あなたと遊んでいたことで、私は間違いなく道を踏み外しました(笑)。
 しかし、あなたに目を覚まさせられたことも確かです。
 音楽、衣服、恋愛…
 田舎の中学生だった私の視界を、より遠いところへ広げてくれたのは、他ならぬあなたです。


   田坂 様

 あなたが早世したことは、私にとって大きな痛手でした。
 優秀でない二人が、もう少し長くつるんでいられる時間があったならば、あなたと私は生涯の友人になっていたことでしょう。
 今は、あなたのくったくのない笑顔、その横顔しか浮かんできません。
 少ない時間だったけれども、楽しかったです。


   野中 様

 あなたは、思春期の私を知る、大きな存在です。
 お互いに若かった、ですね。譲り合えませんでした。ごめんなさい。
 あなたといっしょにビショビショの布団を取り入れたり、木村拓哉の結婚のニュースを知ったりしました。いやぁ…何年前になるのでしょうね?
 あなたの内面は保守ですが、誠実な人です。
 私は裏切られたとは思っていませんよ。感謝。


   井上 先生 (あえてこの名前で)

 あなたは、一個の天才です。
 古今未曾有、でしょう。そのことは私が保証します。
 私のような不肖の弟子がいたことで、あなたはさぞ迷惑されたことでしょう。
 結果的に実に中途半端な形で、私はあなたの下を去りました。
 本当に申し訳ありません。
 観音崎にたたずむあなたの愁いを帯びた表情を、私は忘れません。
 あなたは母であり、手の届かないものでした。
 石田彰さんとあなたは、空前絶後の天才です。


   小峯 様

 柏という街で、右も左も分からなかった私を、段ボールに捨てられた子猫のごとく、とり上げて下さったのは、あなたです。
 今思い返しても、楽しいことしか、笑った顔しか浮かんできません。
 日常生活において心が弱ったとき、もし、許されるのならば、あの時間に帰りたい、と思います。
 今でも、思います。
 そのくらい、楽しかった。嬉しかった。
 憎まれ口、叩かれても、小峯さんでいてください。
 お世話になりました。


   山上 様

 ペコちゃんのような顔をして、ボンテッドのバーボンを飲むあなたを、私は好きでした。
 人一倍気が強く、つっけんどんなあなたは、実は弱く、誠実な女性でした。
 左手の薬指にされていた、羽根のついたリングを、私は覚えています。
 カンパリのロックも、覚えています。
 あなたの真似ばかりしていました(笑)。
 幸せになってください。


   堀 様

 いや、今この期に及んで、憎い(笑)。
 好きなタイプの人間じゃなかったなあ、と思います。
 おそらくあなたも、そうでしょうね。
 あなたは、私の同世代を代表する、一人です。
 あなたの才覚で、私は背中を押されました。
 どんどん活躍して下さい。並走するみんなの、力になります。


   堂本 様

 TVタレントを馬鹿にしていた私の価値観を、あなたは軽く、打ち破りました。
 こんなにも人間味ある「商品」が流通する世界は、あなたにとってさぞ泳ぎにくかったでしょう。
 歌舞伎町の蕎麦屋、忘れてませんよ(笑)
 名字を出すのさえ憚られる方々でいっぱいでした。
 「羊の会」は私の心のホームタウンです。


   篠原 様

 一人の少女が大人になっていくにしたがって、たくさんのものを吸収し、消化して、昇華されていく過程において、あなたが辿った道のりは、全く平たんではなかったのかもしれません。
 現に私は、あなたの笑顔よりも、真剣な眼差しで考え込む横顔の印象が、強い。
 いまは、あのころよりも幾分かリラックスして仕事をしていると思います。
 あなたの才能は、希有なものです。
 あなたは美しく、生きて下さい。


   柄谷 様

 大変お世話になりました。
 偉大な知性が、むくむくと膨れ上がって、「対抗ガン」のように現状に食らいついていくところを間近で拝見できて、幸せでした。
 私は、あなたのような人と同世代に生きられたことを、誇りに思います。
 色々と教えていただきました。ありがとうございます。


   小林 様

 まず、何よりも、松山まで引っ張ってきて、すみませんでした(笑)
 「いいのよ、昔のことだから」と言っているでしょう。知っています。
 あなたは何よりも、努力の人でした。そうして、我慢の人でした。
 緊張の糸が切れたように、まったくバラバラになってしまったことを、いまでも悔やんでいます。
 私は、何も、頑張らなかったですね。
 反省しています。
 もう今では、昔のことなどサッパリ忘れて、新しい日常を歩んでいることでしょう。
 私は、いつの日でも、あなたを応援するものの一人です。
 ありがとう、そして、さようなら。


   村田 様

 ここに自分の名前があることを、あなたは驚かれたかもしれません。
 その理由は、松山に帰ってきてみて、あの店が唯一私の安らげる場所だったからです。
 あの店がなければ、もっと早い段階で私は松山を放り投げていたことでしょう。
 20年30年、と続けて下さい。
 全国レヴェルで勝負できる、松山で唯一のお店です。


   宮内 様

 あなたは、私が帰ってきてから知り合った、東京の友人です。
 と、いっても所詮は松山出身の田舎モノです。
 私はあなたの人間に惹かれました。珍しいことです。
 結局のところ、或る人を応援したくなるかどうかは、その人間を好きかどうかです。
 お調子乗りで、よく笑い、自信過剰なあなたは、私の映し身のようでした。
 知っています。あなたの苦しみも。
 あなたは人を明るくさせる。応援しています。
 和泉さん、黒沢さん、渡辺さんにもお元気で、とお伝えください。


   平倉 様

 あなたは、私よりひとつだけ年長の友人です。
 はじめは、見ず知らずの私のようなものに気をかけてくれて、ありがとう。
 で、例によって私は、少しづつ横着になっていきました(笑)。
 同世代に、あなたのような偉大な才能があったおかげで、ずいぶんと励まされました。
 夢の中で見る文字が読めないのは、何でだろうね?
 いまだに、不思議です。
 ご家族も、どうか健康で。
 浅田さんとのゴダールの対談、聞きたかったな。


   大江 様

 あなたは、最晩年の私を、人として誰より知る人物でしょう。
 私は、あなたに対して安心しきっていたところがあります。嘘ではありません。
 あなたとだったら、ひょっとして別な生き方もできていたかもしれません。
 私の最も信頼する、最も近しい人物。それがあなたです。
 パンダの面倒を、よろしく頼みました。
 ありがとう。


   藤田 様

 一番初めに思ったのは、あなたの写真を撮りたいということです。
 うつむき加減の表情が、あなたは掛け値なしに美しかった。
 撮っておけばよかったと、悔やんでいます。
 美しさは、美しさのまま、捧げ持って生きて下さい。
 もう少し大人になったら、また会いましょう。


   加藤 様

 手紙にお返事を書きたかったのですが、できませんでした。
 許して下さい。
 やはりあなたとも、生き方は大きく違っていましたが、それでもあなたは大切な友人でした。
 あなたが会社に蒔いていった種は、必ず芽を出すことでしょう。
 私はそれを信じています。
 素敵な人を、お見つけなさい。ありがとう。


   黒川梓 様

 最後に。
 不甲斐ないお父さんで、ごめんなさい。
 あなたのことを、誰よりも、一番に愛していたのなら、もっと違う道を選ぶべきでした。
 あなたは、私の、大切な子供です。
 いつの日も、それは変わりません。
 愛しています。
 ごめんなさい、ごめんなさい、
 願わくば、顔を、一目でよいから、見たかった。
 ありがとう。


   このブログをご覧になっている、すべての皆さんへ

 「ロンサール、モーツァルト、ウッチェロ、サン=ジュスト、ラディゲ、星になったわが友らよ、私はあなたたちとまた一緒になりたい」
 Je reste avec vous.  「私はあなたがたと一緒にいます。」- ジャン・コクトー

 ありがとうございました。  黒川寛之
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by ecrits | 2011-06-03 22:49 | 身辺のこと
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