女性器に飯を盛るということ ~遠藤裕人の砥部焼き~

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 12月6日、松山市の「ギャラリー リブ・アート」にて開催されていた遠藤裕人の個展に赴く。
 今日となっては、砥部焼きの現代陶芸作家としてすっかり定着してしまった感がある彼の存在だが、発言する芸術家としての一面があることはあまり知られていない。護憲派の理論家としての彼-しかしそれは決して党派性に還元される性質のものではなく、独自に“一市民の”発言者として立場を一貫させてきた。
 彼に最後に会ったのは、今年の夏、「憲法9条をまもる愛媛県民の会」だったと思うから、半年ぶりくらいの再会になる。連日、右翼の街宣車が喧しく往還していて、会場周辺の住民の皆様には甚だ迷惑をかけた事だったろうと思う。が、それにもめげず、松山という閉塞した土地で、今や耳新しくさえ聞こえる、“まっとうな護憲論”には多くの賛同を頂いたし(実際、それは蓋を開けてみてビックリというほどの反応だった)、今後もそれは発展しながらさらに大きな運動として展開されてゆくだろう。私はそれを心強く思っている人間の一人だ。

 遠藤の砥部焼きは、明快だ。
 砥部焼きの最大の特色である、抜けるような白磁の透明感持を生かしつつ、簡素で幽玄調を感じさせる陶芸は多くのファンを生み、育ててきた。また、彼の作品のほとんどが実用的な食器や花入れに限定されていることも特色であろう。今回の個展でも、近年彼がモティーフとして多用している「つき」や「つばさ」のシリーズが、高い完成度と繊細極まるバランスで配置されており、最終日に足を運んだ私にしても十二分に鑑賞を楽しめた。
 ただ、彼自身も告白するように、「歳をとったといえばそれまでだが、昔のような実験的陶器に魅力を感じなくなった」という現状はいかがなものだろう。今回も、会場の一隅に配せられた、壁面を衝動的に鋭利な刃物で引き裂いたかのようなヒビ(=断絶。 割れ目から聞こえる「声」 懐疑的なエロス)を持つオブジェ風の花活けを除いて、ほとんど昔のような実験的な素材が見られなかった。
 私は非常に強く印象に残っている。はじめて彼の工房(えんどう窯)にお邪魔した折、彼は丁度新作の窯上がりを心待ちにして時間を費やす日々であり、来客心ここにあらずといった塩梅だった。さりとて客に見せたい近作があるわけでもなく、私は当時付き合っていた彼女と二人、砥部の初雪でも降ろうかといううす寒い時節、底冷えするような土間に腰掛け、間の悪い時間を費やしていた。見かねた彼の両親が、玉川大学時代の卒業制作だの、彼の20代の修練時代の作品だの、山というアルバムを持ってきて、私に見せた。中に一つ、ムーミンの「ニョロニョロ」を思わせる、身の丈ほどのオブジェの写真があったから、私が「これはいいと思う」といつものように知ったような事を言っていると、彼の親父さんは、「本人も若つくりの焼き物の中で、それが一番気に入っているようだ」と言った。私は、彼が男根をつくったのだと思った。男根の象徴を、というのではない。また、男根のオブジェをつくったのでもない。彼が「男根そのもの」を土から作ろうとしたことに感動したのだ。だから、「こういうのがもっと何本もあればいい」と言ったら、「何本もあったんです。でも、割れたり色々して、残ったのは数本しかなかった」と答えた。私はその時に頷いていた。草間弥生のような情熱を彼に感じていた。それは、もしかすると、病的な執着かもしれない。
 その頃の彼の作品は女性の陰部や男性の生殖器をモティーフに取り入れたものが多く、私が素直にそれを褒めると、「ほら、男って尖ったものや突き出しているものにカッコよさを感じるじゃないですか?」と彼ははにかんで言っていた。繰り返しになるが、私は男性器や女性器のモデルに飯を盛る事を褒めるのではない。そんなことは下らない。下品だし、低俗な遊びだ。ただ、性器そのものに飯を盛って食う、ということ、その行為、その日常を遠藤が夢想したことが素晴らしいと思っている。
 結局、彼の近作から二点を買って帰った。どちらも個人的には今ひとつと思える出来だが、仕方あるまい。これに加えて、昔買った高皿の写真も載せておく。
 彼の今後にも期待する。

 なお、彼の作品はネットでも購入できる。
 アートギャラリー「イヴ」さんのリンクを貼っておくので、どうぞ。遠藤君にしたら、要らぬ世話を焼いたかもしれない。失礼した。愛媛の方は窯元(「えんどう窯」 伊予郡砥部町北川毛307-3)まで是非どうぞ。そっちの方が安い。
 彼は来年、50になるそうだ。
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by ecrits | 2005-12-10 06:00 | 友人
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